忘年会

世紀末の12月、仲間内の忘年会はジョニーの店ですることになった。
ジョニーと出会ったのは3年前。
この新宿で、まさか高校時代の同級生とばったり会うなんて思ってもいなかった。
それも、すっかり容貌が変わってしまった同級生と。
彼の本名はジョニーではなく、洋二郎なのだ。

「お久しぶりぃ~、みんな元気だったぁ~?」
ジョニーは相変わらず髪を金髪に染めて、派手な衣装で出迎えた。
メンバーは、ジョニーも入れていつもの6人。
「みんな揃ったわね、じゃ、始める?」
ジョニーの店は新宿の雑居ビルの中にある小さなパブで、朝方までやっている。
お客が混み始めるのは夜中の12時を回ってからなので、8時という時間はまだ、僕達の貸し切り状態だった。

「おいおい、まだ安田が来てないぞ。」
矢野が言った。
すると、ジョニーはアイスペールに製氷機の氷を入れながら答えた。
「あぁ、安田ちゃんは・・・・・のよ。」
「え?よく聞こえないよ。」
本間が言った。
「安田がどうしたって?」
伊藤も聞こえなかったらしく、ジョニーに聞き返した。
僕にも聞こえなかった。
ジョニーは、山盛りに氷を入れたアイスペールを持って、カウンターから出て来た。
「安田ちゃんは、死んだのよ。」
「・・・?」
みんな、一瞬、言葉が出なかった。
「・・・死んだって・・・?」
「そうよ、自殺したの。」
みんなの顔から、血の気が引くのがわかった。
それは、安田が自殺したという事と、それを告げたジョニーがあまりにも平然としていた事のギャップが大きくて、何か異常な感覚があったからなのだろう。
「自殺したって・・・なんで?だいたいなんでお前だけが知ってるんだよ?」
「原因は失恋よ。相手はアタシのお友達だから知ってるの。」
ジョニーは、6つのグラスに水割りを作りながら、伊藤の質問に答えた。
「お前の友達って、まさか・・・」
「そう。ニューハーフの子に恋してね、だけどその子には彼氏がいたってわけ。安田ちゃん、お店にも毎晩通って入れ込んでいたんだけどね、叶わぬ恋だったのね~。」
「そうだったのか・・・だけどなにも、自殺だなんて・・・」
みんな、ショックを隠せなかった。
水割りを作り終えたジョニーは、グラスをそれぞれの前に置いた。
「おい、どうしてひとつ余るんだよ。」
「決まってるでしょ、安田ちゃんのよ。」
そのグラスは、僕と矢野の間に置かれていた。
矢野が気味悪そうに言った。
「おいおい、冗談だろ、やめてくれよ。」
「あら、どうしてよ、いつも6人で集まっていたじゃないの、今回だって安田ちゃん、来たかったと思うわよ。」
「しかしなぁ・・・」
僕も気味が悪かった。
「なぁ、これはやっぱりやめたほうがいいよ。安田はもういないんだから、な。」
ジョニー以外はみんな、そう思っていた。

「さぁ、始めましょう。」
ジョニーは、乾き物のおつまみをテーブルに置くと、グラスを持って乾杯を促した。
みんなも、取りあえず乾杯をした。
持ちあがらないグラスが、不自然にひとつテーブルに置かれたままだった。
しかし、アルコールが入ってくると、みんなは次第に安田の為に置かれたグラスのことも気にならなくなって、近況報告や雑談、カラオケと、忘年会は盛り上がっていった。

「いや~、久しぶりに歌ったなぁ~。」
続けて3曲歌った矢野が、ステージから席に帰ってきた。
体格のいい矢野は、ドスンとソファーに座ると、自分のグラスを持とうとした。
「あ~、喉がカラカラだ。・・・あれ?」
矢野の手が止まった。
「俺のグラス、どっちだっけ?こっちがトオルの?」
「いや、僕は自分のグラス、持ってるよ。」
「・・・?」
矢野の前には、半分飲みかけのグラスが、ふたつ並んでいた。
それを見て、本間がボソッと言った。
「安田が来たんじゃないの?」
「やめろよ、お前。」
すかさず、伊藤が苦笑いしながら言った。
「矢野が間違えて、両方飲んでたんじゃないのか?」
僕はそう言いながら、本当にそう思っていた。
だってまさか、安田はいないんだから。
矢野は僕の顔を見て、気を取りなおして笑った。
「あはは、そうだよな、俺が間違えて飲んだんだ。」
「矢野ちゃん、酔ってきたわね~?」
ジョニーは、そう言うと、ふたつのグラスに水割りを作った。
「さ、これでいいわ。矢野ちゃん、どんどん飲んでね。」

忘年会は続いた。
少しして、伊藤がまた驚いた声を出した。
「また減ってる!」
「え?」
「何が?」
みんな伊藤の顔を見た。
「安田のグラスの水割り!」
伊藤は、冗談ではない顔をしていた。
矢野も驚いて言った。
「今度は俺じゃないぞ。トオルじゃないか?」
「僕は間違えないって。」
僕も、そう言いながら、ちょっと不思議に思った。
どうして減ってるんだろう・・・
「なぁ、ジョニー、これって洒落にならないだろう。もう片付けろよ、このグラス。」
そう言う本間に、ジョニーは言った。
「だめよ、追い返すの?」
「追い返すって、安田は死んだんだろう?もういないんだから、グラスさげろよ、なんだか気味悪いよ。」
矢野が真剣に言った。
みんな同感だった。
しかし、ジョニーは引かない。
「だめよ、そんなの、かわいそうでしょ。いいじゃない、一緒に飲みたいだけなのよ。気にしないで、私がちゃんと水割り作ってあげるから。」
「でもなぁ・・・」
まだ納得しない矢野に向かって、ジョニーは続けた。
「じゃあ、どうして矢野ちゃんとトオルくんの間が空いてるの?人ひとり分の間隔があいてるじゃないの。そこに座ってるのよ、安田ちゃんは!」
僕は、ギョッとして隣りを見た。
同じように驚いて口を開けたままの矢野との間には、人間ひとり分の隙間が空いていた。
「・・・」
僕には言葉が出なかった。
ジョニーが言うように、安田が来ているんじゃないか?
僕は、何とも言えない恐怖にかられた。

「あははは!!」
大きな笑い声に、またギョッとして、そちらを見た。
伊藤だった。
「何だよみんな、そんな暗示にかかるんじゃないよ。みんな、安田が自殺したって聞いて、その先入観に加えて、飲み手のいないグラスを置かれていると、そこに誰かが座っているという錯覚に襲われて無意識に席を空けて座ったりしていたんだよ。そんなこと、簡単な精神的トリックじゃないか。ジョニーもやめろよ、そんなことして楽しいのか?」
なんとなくそれは一理あるような気がした。
しかし、ジョニーは平然と伊藤に言った。
「アタシは、みんなをからかっているわけじゃないのよ。見えないの?安田ちゃんは、そこに座っているのよ!」

・・・

やがて時間は、夜中の12時になろうとしていた。
「そろそろお開きにしようか?ジョニーの店も、これから混んで来るんだろ?」
本間が言った。
みんなも同感という顔をしている。
「そうね、じゃ、そろそろ一次会は終わりにしましょうか?アタシはお店があるから、二次会には行けないけど、みんな楽しんで来てね。」

二次会は、矢野の行き付けの、渋谷の小さなバーで始まった。
バーテンが、僕らの座ったテーブルの上で水割りを作り始めた。
そこには、グラスが5つ並んでいた。

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つよしさんからのキャラクターリクエストの「トオル」と、ケンシロウ大特価中さんからのキャラクターリクエストの「ジョニー(日本人)」の共演です。

 

2000年12月27日記